第12

章2-第12

 

聴:

 

 

おりゅう柳

 

むかしむかし、但馬の国(たじまのくに→兵庫県北部)の高柳というところに、とても大きな柳の木がありました。
 その高さは四十間(→約72メートル)、幹のまわりは二丈三尺(→約6.9メートル)という大きさで、五百年も前からそこにあるという事です。
 秋になると、この柳の落葉は遠く一里(いちり→約3.9キロメートル)も離れた九鹿村(くろくむら)まで舞い下りて行くのです。
 その九鹿村に、おりゅうという美しい娘がいました。
 おりゅうは高柳の造り酒屋に女中として奉行(ほうこう)しており、ひまを見つけては柳の木の下で過ごしていました。
 それを見た村人たちが、
「おりゅうは、柳の木の嫁さんだ」
と、言うほどです。
 また村人たちは、こんな歌も歌いました。
♪夕焼け小焼けの、紅かね(→お化粧)つけて
♪九鹿娘は、どこ行きやる
♪風もないのに、柳がゆれる 
♪娘恋しと、夕空に
♪柳の下には、殿ごがお待ち
♪おりゅう、いとしと、抱いてねた
♪娘ぬれてる、柳の露に
♪髪のほつれも、しっぽりと
 やがておりゅうは、可愛らしい男の子を生みました。
 すると誰もが、
「あの赤ん坊は、柳の木の精の子にちがいない」
と、思ったそうです。

 その男の子が五歳になったある日、京都で三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)のお堂を建てるため、柳の大木を棟木(むなぎ)にするから切り出す様にとの命令が下りました。
 それを知ったおりゅうは、悲しくて毎日泣いてばかりいました。
 やがて柳の木に、木こりたちがオノを入れる日がやって来ました。
 カンコン、カンコン・・・。

 次の日、木こりの棟梁(とうりょう)が柳の木を見ると、昨日オノを入れたはずなのに切り口がふさがっているのです。
「あれ? おかしい? 昨日、オノを入れたはずだが」
 棟梁は首をかしげながらも、木こりたちにもう一度オノを入れる様に命じました。
 カンコン、カンコン・・・。
 木こりたちは昨日よりも深い切り口を入れて、その日は帰りました。
 ところが次の日になると、また切り口がふさがっているではありませんか。
「馬鹿な!」
 棟梁は、不思議でたまりません。

 こんな事が何日も続いたある日、棟梁はこんな夢を見ました。
 棟梁のもとへヒョロヒョロとやせたヘクソカズラ (→アカネ科の蔓性多年草)がやって来て、こう言うのです。
「あの柳の木は、木の殿さまです。
 だから夜中になると、家来のヒノキや松が集まって切り口におがくずをつめているのです。
 そうすると、おがくずは切り口の中で固まって、元のようになるのです。
 わたしも殿さまを助けようと、おがくず拾いに来たのですが、ヒノキや松に、
『お前は、木の仲間じゃない。帰れ!』
と、言われましてね。
 それがくやしくてくやしくて、だから言いつけに来たのです」

 次の日、棟梁は切り口からこぼれたおがくずを、全部燃やして帰りました。

 その次の日、切り口はふさがる事なく、そのまま残っていました。
「よし、これで切り倒せるぞ」
 棟梁は毎日おがくずを燃やして帰り、ようやく柳の木を切り倒す事が出来たのです。
 すると不思議な事に、突然、おりゅうが死んでしまったのです。

 さて、やっと柳の木を切り倒したのですが、今度はどうしても柳の木が動きません。
 馬に引かせても、力自慢の大人が何十人で引いても、丸太になった柳の木はびくともしないのです。
「せっかく切り倒したのに、これではどうしようもない」
「何か、良い手はないか?」 
「そうだ。おりゅうの子に頼もう」
 棟梁の命令で、村人たちがおりゅうの子どもを呼びに行きました。
 おりゅうの子どもは母親を亡くしてしょんぼりしていましたが、村人たちに頼まれるとすぐに来ました。
 そして柳の木をなでながら、こうささやきました。
「ここには、もうお母さんはいないよ。ぼくと一緒に、都へ行こう」
 そのとたん、丸太になった柳の木が、ゴロゴロと動き出したのです。
 そして柳の木は、おりゅうの子どもと一緒に京都まで行って、三十三間堂の棟木になりました。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

おりゅう柳

 

むかしむかし、但馬たじまの国くに(たじまのくに→兵庫ひょうご県けん北部ほくぶ)の高柳たかやなぎというところに、とても大おおきな柳やなぎの木きがありました。
 その
高たかさは四よん十じゅう間けん(→約やく72メートル)、幹みきのまわりは二に丈たけ三さん尺しゃく(→約やく6.9メートル)という大おおきさで、五ご百ひゃく年ねんも前まえからそこにあるという事ことです。
 
秋あきになると、この柳やなぎの落葉らくようは遠とおく一いち里り(いちり→約やく3.9キロメートル)も離はなれた九鹿くろく村むら(くろくむら)まで舞まい下おりて行いくのです。
 その
九鹿くろく村むらに、おりゅうという美うつくしい娘むすめがいました。
 おりゅうは
高柳たかやなぎの造つくり酒屋ざかやに女中じょちゅうとして奉行ぶぎょう(ほうこう)しており、ひまを見みつけては柳やなぎの木この下したで過すごしていました。
 それを
見みた村人むらびとたちが、
「おりゅうは、
柳やなぎの木きの嫁よめさんだ」
と、
言いうほどです。
 また
村人むらびとたちは、こんな歌かも歌うたいました。
♪
夕焼ゆうやけ小しょう焼やけの、紅べにかね(→お化粧けしょう)つけて
♪
九きゅう鹿しか娘むすめは、どこ行いきやる
♪
風ふうもないのに、柳やなぎがゆれる 
♪
娘むすめ恋こいしと、夕空ゆうぞらに
♪
柳やなぎの下したには、殿しんがりごがお待まち
♪おりゅう、いとしと、
抱だいてねた
♪
娘むすめぬれてる、柳やなぎの露ろに
♪
髪がみのほつれも、しっぽりと
 やがておりゅうは、
可愛かわいらしい男おとこの子こを生うみました。
 すると
誰だれもが、
「あの
赤あかん坊ぼうは、柳やなぎの木きの精せいの子こにちがいない」
と、
思おもったそうです。

 その
男おとこの子こが五ご歳さいになったある日ひ、京都きょうとで三さん十じゅう三さん間けん堂どう(さんじゅうさんげんどう)のお堂どうを建たてるため、柳やなぎの大木たいぼくを棟木むなぎ(むなぎ)にするから切きり出だす様ようにとの命令めいれいが下おりました。
 それを
知しったおりゅうは、悲かなしくて毎日まいにち泣ないてばかりいました。
 やがて
柳やなぎの木きに、木きこりたちがオノを入いれる日ひがやって来きました。
 カンコン、カンコン・・・。

 
次つぎの日ひ、木きこりの棟梁とうりょう(とうりょう)が柳やなぎの木きを見みると、昨日きのうオノを入いれたはずなのに切きり口くちがふさがっているのです。
「あれ? おかしい? 
昨日きのう、オノを入いれたはずだが」
 
棟梁とうりょうは首くびをかしげながらも、木きこりたちにもう一度いちどオノを入いれる様ように命めいじました。
 カンコン、カンコン・・・。
 
木きこりたちは昨日きのうよりも深ふかい切きり口くちを入いれて、その日ひは帰かえりました。
 ところが
次つぎの日ひになると、また切きり口くちがふさがっているではありませんか。
「
馬鹿ばかな!」
 
棟梁とうりょうは、不思議ふしぎでたまりません。

 こんな
事ごとが何なん日にちも続つづいたある日ひ、棟梁とうりょうはこんな夢ゆめを見みました。
 
棟梁とうりょうのもとへヒョロヒョロとやせたヘクソカズラ (→アカネ科かの蔓づる性せい多年草たねんそう)がやって来きて、こう言いうのです。
「あの
柳やなぎの木きは、木きの殿とのさまです。
 だから
夜中やちゅうになると、家来けらいのヒノキや松まつが集あつまって切きり口くちにおがくずをつめているのです。
 そうすると、おがくずは
切きり口くちの中なかで固かたまって、元もとのようになるのです。
 わたしも
殿とのさまを助すけようと、おがくず拾ひろいに来きたのですが、ヒノキや松まつに、
『お
前まえは、木きの仲間なかまじゃない。帰かえれ!』
と、
言いわれましてね。
 それがくやしくてくやしくて、だから
言いいつけに来きたのです」

 
次つぎの日ひ、棟梁とうりょうは切きり口くちからこぼれたおがくずを、全部ぜんぶ燃もやして帰がえりました。

 その
次つぎの日ひ、切きり口くちはふさがる事ことなく、そのまま残のこっていました。
「よし、これで
切きり倒たおせるぞ」
 
棟梁とうりょうは毎日まいにちおがくずを燃もやして帰かえり、ようやく柳やなぎの木きを切きり倒たおす事ことが出来できたのです。
 すると
不思議ふしぎな事ことに、突然とつぜん、おりゅうが死しんでしまったのです。

 さて、やっと
柳やなぎの木きを切きり倒たおしたのですが、今度こんどはどうしても柳やなぎの木きが動うごきません。
 
馬うまに引ひかせても、力ちから自慢じまんの大人おとなが何なん十じゅう人にんで引ひいても、丸太まるたになった柳やなぎの木きはびくともしないのです。
「せっかく
切きり倒たおしたのに、これではどうしようもない」
「
何なにか、良よい手てはないか?」 
「そうだ。おりゅうの
子こに頼たのもう」
 
棟梁とうりょうの命令めいれいで、村人むらびとたちがおりゅうの子こどもを呼よびに行いきました。
 おりゅうの
子こどもは母親ははおやを亡なくしてしょんぼりしていましたが、村人むらびとたちに頼たのまれるとすぐに来きました。
 そして
柳やなぎの木きをなでながら、こうささやきました。
「ここには、もうお
母かあさんはいないよ。ぼくと一緒いっしょに、都とへ行いこう」
 そのとたん、
丸太まるたになった柳やなぎの木きが、ゴロゴロと動うごき出だしたのです。
 そして
柳やなぎの木きは、おりゅうの子こどもと一緒いっしょに京都きょうとまで行いって、三さん十じゅう三さん間けん堂どうの棟木むなぎになりました。

 

おしまい

 
 
 
 
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