章4-第3

章4-第3

 

聴:

 

 

舞茸

 

むかしむかし、京都の木こりたちが、大勢で北山(きたやま)に出かけました。

 木こりたちはいつの間にか道に迷ってしまい、お腹を空かせて途方にくれていました。
 すると突然、林の奥の方から人の声が聞こえてきたのです。
「助かった。あそこに人がいるぞ」
 木こりたちが駆け寄ると、そこに現れたのは五人の尼さんたちでした。
 ですが奇妙な事に、その尼さんたちは目を大きく見開き、手を振り、足を振り、面白おかしく踊っているのです。
 木こりたちは、何だか恐しくなってきました。
「何で、こんな所で踊りを?」
「もしやあれは、鬼か魔物ではなかろうか?」
「そうだ、尼さんの姿をした化け物だ!」
 木こりたちは、あわてて木の上に隠れました。
 でも尼さんたちは木こりたちの居場所を知っているように、踊りながらどんどん近づいてきます。
 そこで一人の木こりが、勇気を出して尋ねました。
「もし、そこの尼さま。こんな山中を、どうしてその様に踊り回っておられるのですか?」
 大声で笑いながら踊り狂っている尼さんたちの一人が、やはり舞い踊りながら答えました。
「不思議に思われるのは、当然です。
 実は私たちにも、どうしてよいのかわからないのですから。
 私たちは、この山寺に住む尼で、仏さまにお備えする花をつんでこようと出かけて来たのです。
 でもどうした事か道に迷ってしまい、お腹も空いてほとほと困り果てていました。
 そして、どうせこのまま死ぬのなら、せめてお腹だけでも満たそうと、そばに生えていたキノコを一口づつ食べたのです。
 するとそのキノコがとてもおいしく、この世の物とも思えないほどでした。
 それでまわりにあったキノコというキノコを、みんな食べ尽くしてしまいました。
 仏さまに仕える身でありながら、あさましく食べた天罰なのでしょうか。
 その不思議なキノコを食べ終わったとたん、私たちの手足は、ほれこの通り、勝手に踊り出して止める事が出来なくなったのです」
 話を聞いた木こりたちはびっくりしましたが、食べても死ぬ事がないのならと、残りのキノコを分けてくれる様に尼さんたちに頼みました。
「ですが、それは・・・」
 尼さんたちはキノコを食べる事を止めましたが、木こりたちがどうしても食べたいと言うので、仕方なくキノコの場所を教えてあげました。

 やがてその場所へやって来た木こりたちは、そのキノコをガツガツと食べ始めました。
「うまい。何とうまいキノコだ!」
 たしかにそのキノコは、この世の物とは思えないほどおいしいキノコです。
 たらふく食べた木こりたちは、お酒に酔った様にうっとりといい気持になってきました。
「ああ、いい気持ちだ。・・・おや? 体が?」
 そのとたん、木こりたちの手足が勝手に動き出して、気がつくと木こりは尼さんたちの仲間入りをしていたのです。
 尼さんたちと木こりたちの奇妙な一団は、踊りながら山中を歩き回りました。
 そして日が西に傾いた頃、ようやく手足は踊りをやめて、みんなは元の状態に戻りました。
 やっと、キノコの魔力が消えたのです。

 この事があってから、京ではこのおいしいキノコを舞茸(マイタケ)と呼ぶようになったそうです。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

舞茸

 

むかしむかし、京都きょうとの木きこりたちが、大勢おおぜいで北山きたやま(きたやま)に出でかけました。
 
木きこりたちはいつの間まにか道みちに迷まよってしまい、お腹なかを空すかせて途方とほうにくれていました。
 すると
突然とつぜん、林はやしの奥おくの方ほうから人ひとの声こえが聞きこえてきたのです。
「
助たすかった。あそこに人ひとがいるぞ」
 
木きこりたちが駆かけ寄よると、そこに現あらわれたのは五ご人にんの尼にさんたちでした。
 ですが
奇妙きみょうな事ことに、その尼にさんたちは目めを大おおきく見開みひらき、手てを振ふり、足あしを振ふり、面白おもしろおかしく踊おどっているのです。
 
木きこりたちは、何なんだか恐おそれしくなってきました。
「
何なんで、こんな所しょで踊おどりを?」
「もしやあれは、
鬼おにか魔物まものではなかろうか?」
「そうだ、
尼にさんの姿すがたをした化ばけ物ものだ!」
 
木きこりたちは、あわてて木きの上うえに隠かくれました。
 でも
尼にさんたちは木きこりたちの居場所いばしょを知しっているように、踊おどりながらどんどん近ちかづいてきます。
 そこで
一いち人にんの木きこりが、勇気ゆうきを出だして尋たずねました。
「もし、そこの
尼にさま。こんな山中さんちゅうを、どうしてその様ように踊おどり回まわっておられるのですか?」
 
大声おおごえで笑わらいながら踊おどり狂くるっている尼にさんたちの一いち人にんが、やはり舞まい踊おどりながら答こたえました。
「
不思議ふしぎに思おもわれるのは、当然とうぜんです。
 
実じつは私わたしたちにも、どうしてよいのかわからないのですから。
 
私わたしたちは、この山寺やまでらに住すむ尼あまで、仏ふつさまにお備そなえする花はなをつんでこようと出でかけて来きたのです。
 でもどうした
事ことか道みちに迷まよってしまい、お腹なかも空あいてほとほと困こまり果はてていました。
 そして、どうせこのまま
死しぬのなら、せめてお腹なかだけでも満みたそうと、そばに生はえていたキノコを一いち口くちづつ食たべたのです。
 するとそのキノコがとてもおいしく、この
世よの物ものとも思おもえないほどでした。
 それでまわりにあったキノコというキノコを、みんな
食たべ尽つくしてしまいました。
 
仏ふつさまに仕つかえる身みでありながら、あさましく食たべた天罰てんばつなのでしょうか。
 その
不思議ふしぎなキノコを食たべ終おわったとたん、私わたしたちの手足てあしは、ほれこの通とおり、勝手かってに踊おどり出だして止とめる事ことが出来できなくなったのです」
 
話はなしを聞きいた木きこりたちはびっくりしましたが、食たべても死しぬ事ことがないのならと、残のこりのキノコを分わけてくれる様ように尼にさんたちに頼たのみました。
「ですが、それは・・・」
 
尼にさんたちはキノコを食たべる事ことを止とめましたが、木きこりたちがどうしても食たべたいと言いうので、仕方しかたなくキノコの場所ばしょを教おしえてあげました。

 やがてその
場所ばしょへやって来きた木きこりたちは、そのキノコをガツガツと食たべ始はじめました。
「うまい。
何なんとうまいキノコだ!」
 たしかにそのキノコは、この
世よの物ものとは思おもえないほどおいしいキノコです。
 たらふく
食たべた木きこりたちは、お酒さけに酔よった様ようにうっとりといい気持きもちになってきました。
「ああ、いい
気持きもちだ。・・・おや? 体からだが?」
 そのとたん、
木きこりたちの手足てあしが勝手かってに動うごき出だして、気きがつくと木きこりは尼にさんたちの仲間入なかまいりをしていたのです。
 
尼にさんたちと木きこりたちの奇妙きみょうな一団いちだんは、踊おどりながら山中さんちゅうを歩あるき回まわりました。
 そして
日ひが西にしに傾かたむいた頃ころ、ようやく手足てあしは踊おどりをやめて、みんなは元もとの状態じょうたいに戻もどりました。
 やっと、キノコの
魔力まりょくが消きえたのです。

 この
事ことがあってから、京きょうではこのおいしいキノコを舞まい茸だけ(マイタケ)と呼よぶようになったそうです。
 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
 
 
A p p   F o r   P h o n e
  • Android
  •   
  • iOS

App 4.0 ↓
A p p   F o r   P h o n e
  • Android
  •   
  • iOS 4.3